揖宿神社は、鹿児島県指宿市東方に鎮座する神社です。古くは「開聞新宮九社大明神」と呼ばれ、また「しんぐう神社」とも訓まれていました。現在では、地元の方々や参拝者に親しまれ、地域の歴史や文化を感じさせる場所として知られています。
揖宿神社の起源は社伝によると慶雲3年(706年)、天智天皇の遺品を奉じて建てられた「葛城宮」に始まるとされています。その後、貞観16年(874年)、開聞岳の噴火により被災した枚聞神社がこの地に避難遷宮され、ここから「開聞新宮九社大明神」と呼ばれるようになりました。
明治時代になると「揖宿神社」に改称され、郷社としての地位を持つようになりました。現在は単立神社として存在し、地域の神事や祭礼が行われる重要な拠点となっています。
揖宿神社の現存する社殿は弘化4年(1847年)に島津斉興によって建てられたものです。本殿は入母屋造妻入であり、石造の鳥居は鹿児島市の甲突五石橋を手がけた肥後国の石工、岩永三五郎の作です。また、手水鉢は調所広郷による寄進となっています。
社殿の構成は、本殿・舞殿・拝殿・勅使殿が一直線に配され、勅使殿の左右には東長庁・西長庁が備わっています。これらの建物群はすべて総楠造りであり、棟梁は阿蘇鉄也(川内市の新田神社や姶良市の蒲生八幡神社の造営を担当)でした。
この社殿は1992年(平成4年)3月2日に指宿市の有形文化財に指定されています。
揖宿神社の主祭神は大日孁貴命(天照大御神)です。さらに、相殿には以下の御子神たちが祀られています。
また、摂社には東之宮(彦火火出見命)、二龍宮(和田都美命)、聖宮(塩土翁命)、懐殿宮(昭美日月命)、西之宮(天命開別命)、姉姫宮(豊玉姫命)、天井宮(玉依姫命)、荒仁宮(大己貴命)が奉斎されています。
これらの神々をあわせて「開聞新宮九社大明神」と称し、1968年(昭和43年)には市内十二町字諏訪に鎮座していた南方神社の建御名方命を合祀しました。
揖宿神社には、室町時代頃に作られた能面3面が所蔵されており、1959年(昭和34年)6月10日に鹿児島県指定有形文化財として指定されました。
揖宿神社の境内には鬱蒼とした森が広がっており、これが鹿児島県指定天然記念物に指定されています。指定日は2003年(平成15年)4月22日です。それ以前には、境内に群生している楠8株が1972年(昭和47年)2月1日に指宿市の天然記念物として指定されていました。
本殿、舞殿、拝殿、勅使殿は指宿市指定有形文化財となっています。
さらに、揖宿神社の社前に立つ椋の木「田の神依代ムクノキ」は指宿市指定有形民俗文化財に指定され、1976年(昭和51年)3月8日にその価値が認められました。
揖宿神社は指宿市東方に位置し、地元の方々や観光客にとってもアクセスしやすい場所にあります。四季折々の美しい風景に囲まれたこの神社は、歴史と自然が調和した魅力的な場所です。参拝者は、神社の歴史や文化に触れながら、ゆっくりと境内を散策し、心を落ち着けることができます。