指宿温泉は、鹿児島県指宿市東部(旧国薩摩国)にある南九州を代表する温泉地であり、摺ヶ浜温泉(砂蒸しで有名)、弥次ヶ湯温泉、二月田温泉など、さまざまな温泉が集まったエリアを指します。泉源の数は500以上とされ、その豊富な湧出量は南九州でも随一です。特に、天然の砂むし温泉は全国的にも珍しく、多くの観光客が訪れる魅力的なスポットとなっています。
鹿児島県内有数の観光地であり、2003年(平成15年)には年間285万人の観光客が訪れ、91万人の宿泊客を集めています。農業や養殖などへの温泉利用も盛んで、温泉の9割が産業利用されていた時期もありました。また、1960年頃から始まったハネムーンブームの中、「東洋のハワイ」と呼ばれた指宿温泉は、そのメッカとして賑わいました。
指宿温泉の概要
指宿温泉は、池田湖、開聞岳、鰻池、長崎鼻、山川湾といった名所に囲まれ、自然の美しさと豊かな温泉資源が特徴です。泉質は主にナトリウム-塩化物泉で、地域や掘削深度によって塩分濃度や微量成分が異なります。活動泉源はおおむね500カ所あり、1日あたりの総湧出量は約12万トンです。湧出温度は50-60℃が多く、100℃に達するものもあります。温泉の水源は池田湖や鰻池に溜まった雨水と鹿児島湾からの海水が地下で混合したもので、熱源は阿多カルデラに関連したマグマであると考えられています。
温泉街の様子
指宿温泉街には、特に砂蒸しで有名な摺ヶ浜付近に大規模な宿泊施設が集中しています。砂蒸し風呂は指宿温泉の象徴であり、多くの観光客が体験します。施設としては砂むし会館「砂楽」があり、雨の日でも砂蒸しを楽しむことができます。
指宿温泉の歴史
「指宿」の名称は「湯豊宿」に由来すると言われていますが、他の説も存在します。江戸時代以前は高温の温泉や噴気口が点在する湿原であり、危険な場所とされていましたが、麻の加熱処理や炊事用、浴用として古くから利用されていました。江戸時代後期の地誌『三国名勝図会』にも多くの温泉が紹介されています。
近代の開発と利用
明治以前は自然に湧出する泉源を利用するのみでしたが、地面を数メートル掘削することで容易に温泉が得られるため、広範囲にわたって開発が進みました。特に1919年(大正8年)頃から1955年(昭和30年)頃にかけて温泉熱を農業や製塩に利用するため、地下から大量の湯がくみ上げられた結果、古くから使われている泉源の枯渇や温度低下などの問題が多発しました。このため、新たな温泉源の探索が行われ、1957年(昭和32年)に地下200-300mの新たな温泉地層が発見され、利用されるようになりました。1964年(昭和39年)以降、温泉の製塩への利用は禁止されていますが、農業や魚の養殖への利用は現在も行われています。
観光地としての発展
高度経済成長以降、大規模なホテルが建設されるなど観光地としての開発が進み、日本国内および海外から多くの観光客が訪れるようになりました。1982年(昭和57年)から毎年1月の第2日曜日に指宿温泉マラソン(1984年からいぶすき菜の花マラソン)が開催されており、毎年1万人以上の参加者を集めています。
指宿温泉へのアクセス
指宿温泉へのアクセスは、JR鹿児島中央駅から指宿枕崎線で約1時間、または鹿児島空港から直行バスで約1時間35分です。車の場合、九州自動車道鹿児島インターチェンジから指宿スカイラインへ進み、谷山インターチェンジから国道225号線・国道226号線を経由して到着します。
主な温泉群
摺ヶ浜温泉
摺ヶ浜温泉は、指宿駅南東の海岸沿いに位置し、砂蒸し風呂で有名です。「砂場ヶ浜」が「スイガ浜」と呼ばれ、やがて「摺ヶ浜」に変わったとされています。長さ約1kmの砂浜に温泉で加熱された高温部があり、浴衣を着て適度な温度になるように攪拌された砂に埋まって温まる入浴方法が人気です。泉質は湧出温度82℃のナトリウム塩化物泉です。
砂むしの歴史
砂蒸しの歴史は古く、島津義久が利用した殿様湯があったと伝えられています。元禄年間から行われていた砂蒸しは、神経痛などに効能があるとされ、『三国名勝図会』にも記載されています。1793年(寛政5年)には島津斉宣が館を建て、殿様湯として利用されました。
アクセス
摺ヶ浜温泉へは、JR指宿枕崎線指宿駅下車、徒歩約5分です。
その他の温泉地
弥次ヶ湯温泉
指宿駅の北部に位置する温泉で、弥次という者が発見したという説がありますが、他の説もあります。観葉植物の栽培に利用されています。
湯之里温泉
弥次ヶ湯温泉の東に隣接し、高温の湯が得られることから盛んに開発が行われ、製塩などに利用されていました。周辺の宿泊施設等の泉源としても利用されています。
大牟礼温泉
『三国名勝図会』に記される古い温泉で、「村之湯温泉」として現存します。
潟口温泉
湯之里温泉の東側海岸沿いに位置し、歴史は古く湧出量も多かったですが、湯之里温泉の開発に伴い急速に衰退しました。魚の養殖に利用されています。
潟山温泉
二月田駅の東側から魚見岳にかけて広がる温泉で、主に農業に利用されています。
二月田温泉
二月田駅の西側に位置し、1831年(天保2年)に島津斉興が摺ヶ浜から館を移し、殿様湯と呼ばれた弱酸性の温泉です。殿様湯跡は指宿市の文化財に指定され、当時の敷石などが残されています。
河原湯温泉
二月田温泉の西側に隣接する温泉です。
宮ヶ浜温泉
宮ヶ浜駅付近にある温泉で、魚の養殖に利用されています。
柴立温泉
宮ヶ浜駅付近に存在した温泉で、歴史は古く、また弥次ヶ湯温泉と湯之里温泉の原型ともいわれています。
山川温泉
山川温泉は指宿駅から南東約10kmの地点にある山川港近くの温泉で、東郷温泉、渕川温泉、福元温泉などで構成されます。1883年(明治16年)に山川製塩株式会社の製塩用に温泉が利用されました。現在は食品加工や魚の養殖に利用されています。
東郷温泉
1913年(大正2年)に初湯を得た温泉で、山川温泉のメインの源泉です。約90℃の熱湯が噴出しています。
渕川温泉
山川駅の西方に位置し、1860年(万延元年)に開発された温泉で、1974年(昭和49年)まで製塩に利用されていました。現在は魚の養殖に利用されています。
福元温泉
山川港の北方にあり、周辺の宿泊施設等の泉源として利用されています。
摺ヶ浜温泉、弥次ヶ湯温泉、二月田温泉など温泉を合わせて指宿温泉と呼び、温泉泉源が500以上といわれ、南九州随一の豊富な湧出量を誇る。
中でも若い方からお年寄りまで多くの人気を集めているのが、摺ヶ浜温泉にある日本でも貴重な天然砂むし温泉。
砂むしは、体をすっぽりと熱を帯びた砂に埋め、全身を温めることで血行や老廃物排出の促進を図る入浴。江戸時代からおこなわれていたとの記録がある。
摺ヶ浜温泉の温泉街は駅から海岸に向かい、さらに南側へ広がる地域に宿泊施設が建ち並んでいる。砂むしは海岸沿いの宿泊施設のほか、海浜で行うことができる。