内之浦宇宙空間観測所は、鹿児島県肝属郡肝付町(旧内之浦町)にある日本の宇宙空間観測施設・ロケット打ち上げ施設です。鹿児島宇宙センターの所管であり、敷地面積は70万4345平方メートルの広大な施設で、世界でも珍しい山地に立つロケット発射場として知られています。
内之浦宇宙空間観測所は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の施設の一つであり、日本で最初の人工衛星「おおすみ」の打ち上げなど、固体燃料ロケットを用いた宇宙観測や技術試験、天文観測衛星・惑星探査機の打ち上げ、およびそれらの追跡・管制を行っています。日本国内のロケット打ち上げ施設としては、種子島宇宙センターと並ぶ存在です。
内之浦宇宙空間観測所は市街地から離れた場所に位置しており、物資輸送が便利で、東側が開けた地域にあります。これは、ロケットの打ち上げにおいて、地表の自転速度が速い地域として選ばれた理由の一つです。前身は文部省宇宙科学研究所(ISAS)付属の東京大学鹿児島宇宙空間観測所であり、JAXA統合後に現在の名称に改められました。
内之浦宇宙空間観測所の設立の契機となったのは、1960年10月24日に糸川英夫が現地調査を行ったことに始まります。1961年4月11日には東京大学生産技術研究所が内之浦を射場として選定し、その後、秋田ロケット実験場に続く日本で2番目のロケット打ち上げ施設として1962年2月2日に起工、1963年12月9日に開所されました。
旧名称は鹿児島宇宙空間観測所で、英略はKSCでケネディ宇宙センターと同じものでしたが、命名はこちらが先であったことから「元祖KSC」を名乗っていた時期もあります。この観測所で最初に打ち上げられたのは、OT-75ロケット1号機で、1962年2月2日に町民約2000人と関係者約250人が集まって行われた観測所起工式で祝砲代わりに打ち上げられました。
内之浦宇宙空間観測所は、建設当時、世界で初めて山地に設けられたロケット発射場でした。それまでロケット発射場は平地にしかなく、内之浦の例は非常に珍しいものでした。その後、広い平地を持たない北欧諸国の山間部にも同様の発射場が建設され、オーロラ観測等に貢献しました。
内之浦では、ロケットの打ち上げにおいて、海上に早く放出するための傾斜発射を行うことが特徴でした。これにより、万一事故が発生した際の被害を最小限に抑えることができました。しかし、イプシロンロケットでは傾斜発射台は不要となり、通常の垂直発射台に改造されました。
内之浦宇宙空間観測所で打ち上げられたロケットの総数は約400機に上ります。
2003年5月9日13時29分、「はやぶさ(MUSES-C)」が小惑星「イトカワ」へ打ち上げられました。「はやぶさ」は小惑星から表面の物質を地球に持ち帰る技術(サンプルリターン)を実証し、2010年6月13日に地球へ帰還しました。搭載カプセルはオーストラリアのウーメラ砂漠へ落下させ、その運用を終えました。「はやぶさ」の名称は、糸川英夫博士が設計した「隼」に由来し、小惑星「イトカワ」は糸川英夫の名に因んでいます。
2021年10月1日午前9時55分に行われたイプシロンロケット5号機の打ち上げでは、ロケットの位置や速度を測る移動式レーダーの時刻表示がずれていることが判明し、予定時刻の19秒前にカウントダウンが緊急停止するという事態が発生しました。
Μセンターは標高210メートルに位置し、面積は2万5000平方メートルです。ここではミューロケットの発射が行われており、ミュー台地とも呼ばれています。施設にはロケットの組立、打ち上げ管制、発射装置(発射塔とランチャー)などの機能が備わっており、固体燃料ロケットとしては世界最大級のM-Vロケットの打ち上げに使用されていました。2001年まではラムダ発射台が設置されており、その後、ロケットセンターがKSセンターに改修されました。
KSセンターは標高276メートルに位置し、面積は7000平方メートルの小型ロケット発射施設です。施設にはSS-520ロケット、S-520ロケット、S-310ロケット、MT-135型観測ロケットの発射が行われており、KS台地とも呼ばれています。打ち上げ時には天井が開く仕組みとなっており、ロケットはドーム内で打ち上げ態勢に入り、そのまま打ち上げられます。
コントロールセンターは、KSセンターから打ち上げられる観測ロケットの打ち上げを管制する施設です。また、内之浦宇宙空間観測所で打ち上げられる全てのロケットの打ち上げ管制も担っています。さらに、内之浦宇宙空間観測所の管制塔は3階建てであり、最上階からロケットの打ち上げが監視されます。
内之浦宇宙空間観測所へのアクセスは、鹿児島空港から車で約2時間30分、または鹿児島中央駅からバスと車で約3時間30分です。観測所周辺には展望台が整備されており、打ち上げの様子を見学することができます。また、内之浦町内には宇宙関連の資料を展示する宇宙記念館もあり、見学することができます。