菱刈鉱山は、鹿児島県伊佐市の菱刈地区東部に位置する鉱山であり、現在日本国内で商業的規模の操業が行われている唯一の金鉱山です。歴史的に見ても、金の産出量・推定埋蔵量ともに日本最大であり、金の他に銀も産出しています。
菱刈鉱山のある菱刈町は、江戸時代から産金地として知られていました。1960年代に金属鉱業事業団(現:独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構)が金鉱探査を行い、1981年(昭和56年)に鉱脈を発見しました。その後、1985年から住友金属鉱山による採鉱が始まりました。菱刈鉱山の鉱石中の金の含有量は、一般的な鉱山の約8倍に達し、日本国内の年間産金量の9割以上を占めています。
菱刈鉱山の金の推定埋蔵量は250トンとされ、これは日本国内の他の主要な金山の埋蔵量をすべて合計したものを上回る規模です。1982年の住友金属鉱山によるボーリング調査では、6本すべてが鉱脈に達するなど、埋蔵量は非常に多く、調査のたびに推定量が増加しています。1997年(平成9年)には累計産金量が佐渡金山(83トン、閉山済み)を超え、日本一となりました。さらに2012年(平成24年)には、新たに埋蔵量30トン、時価約1300億円相当の金鉱脈が発見されました。
菱刈鉱山は現在も年間6トンもの金を産出する、商業規模での操業が行われている日本唯一の現役金鉱山です。一般人の見学や立ち入りは許可されていませんが、住友金属鉱山の技術者養成の場としても機能しており、約60人が働いています。坑道は総延長100キロメートル以上に及び、坑口は標高265メートルであるにもかかわらず、海抜マイナス50メートルまで掘削されています。2020年3月時点での累計産金量は248.2トンに達しています。
菱刈鉱山の金鉱石は非常に高品位で、通常の金鉱石の品位は数グラム/トンですが、菱刈鉱山のものは鉱床探査の試錐で290グラム/トン、鉱山の平均でも約40グラム/トンと、世界平均の約10倍の含有率を誇ります。これにより、菱刈鉱山は世界一の金品位とされています。鉱石は選別された後、住友金属鉱山の東予工場(愛媛県西条市)に運ばれて製錬され、「コンフリクトフリー」の認証を受けて出荷されています。
従来の鉱山では鉱内鉄道やトロッコが使用されていましたが、菱刈鉱山では当初からトラックレス・マイニング方式を導入しており、鉱内からダンプカーで鉱石を搬出しています。この方式により効率的な採掘が可能となり、鉱山運営の近代化が進められています。
菱刈鉱山の坑内では約65℃の温泉が湧出しており、その一部は副産物として湯之尾温泉へ供給されています。残りの温泉水は冷却後に川内川に放出されています。かつて湯之尾温泉には鉱山での採掘以前に間欠泉が存在していましたが、採掘が始まると枯渇してしまいました。さらに温泉街では地盤沈下が発生し、現在では温泉宿が別の場所に移転し、鉱山からの供給湯を使用して営業しています。
菱刈鉱山は今後も技術革新を続けながら、国内外の金需要に応えていくことが期待されています。また、環境保護と地域社会との共生を図りながら、持続可能な鉱山運営を進めていくことが求められています。
今後も世界有数の金鉱山としての地位を維持し、持続可能な発展に貢献することが期待されています。