鹿児島県 » 出水・川内・串木野

出水ツル渡来地

(いずみ とらいち)

出水ツル渡来地は、鹿児島県出水市に位置し、毎年10月から翌年3月までの間に約1万羽のツルが越冬する重要な場所です。この地は、1952年に国の特別天然記念物として指定され、さらに2021年にはラムサール条約指定湿地に登録されました。出水ツル渡来地は、ツルの生態や地域との共生において、非常に重要な役割を果たしています。

出水ツル渡来地の概要

毎年、10月中旬から11月にかけて、北や北西の風に乗ってツルがこの地に渡来します。ツルたちは翌年3月まで出水平野で越冬し、その姿はまさに壮観です。この地域には、主にナベヅル約1万羽、マナヅル約3千羽が飛来しますが、他にもクロヅルやアネハヅル、カナダヅル、ソデグロヅルなどの珍しい種類のツルも観察されます。また、ツル以外にもホシハジロなどの野鳥も確認されます。

ツルの食生活と保護活動

出水平野に飛来したツルたちは、稲刈り後の水田や休耕田でイネの二番穂や雑草、昆虫などを食べながら冬を越します。これに加えて、ツルによる農作物の食害対策として人為的な給餌も行われ、毎年11月から3月にかけて約75トンの小麦や玄米、大豆が与えられます。ツルのねぐらとして浅く水を張った湿地が用意されるなど、地域を挙げた保護活動が続けられています。

ツルの北帰行と渡来数の変動

冬を越したツルたちは、2月から3月にかけて北風に乗って飛び立ちます。この際、約8トンのイワシが与えられ、ツルたちは円を描くように空高く舞い上がって北へ帰っていきます。ツルの繁殖地はバイカル湖やアムール川の湿地帯であり、越冬地は出水市のほかに山口県や韓国、中国にもあります。気象条件により渡来数は変動しますが、出水平野には多くのツルが飛来し、特にナベヅルの9割、マナヅルの5割が毎年出水で越冬します。

出水ツル渡来地の歴史

江戸時代、薩摩藩の領地であった出水平野では、ツルが多く飛来していたことが記録されています。最初の記録は1694年で、この地でツルが観察されたことが確認されています。当時、幕府からの命令によりツルの保護が奨励され、薩摩藩も積極的にツルの保護を進めていました。しかし、明治維新後に保護の拠り所がなくなると、ツルは狩猟の対象となり、数が激減しました。

保護活動の再開と観光地化

ツルの渡来数が減少する中、1895年に狩猟法が制定され再び保護されるようになりました。これを契機にツルの数が増え、大正から昭和にかけてはツルを観察するための観光施設や馬車が運行されるようになりました。また、1923年に開通した鹿児島本線は、当初は渡来地を横切るルートが計画されていましたが、鳥類学者の内田清之助がツルの保護を訴え、ルートを変更することに成功しました。

特別天然記念物指定とその後

1952年、出水ツル渡来地は特別天然記念物に指定され、その後もツルの保護活動は続けられてきました。1962年には「鹿児島県ツル保護会」が結成され、翌年には渡来数が千羽を越えるようになりました。さらに、1992年には1万羽を超えるツルが飛来するようになり、出水平野は日本国内最大のツルの越冬地として知られるようになりました。

ラムサール条約湿地への登録

2021年11月、出水ツル渡来地は日本で53番目のラムサール条約湿地に登録されました。この登録により、ツルの保護が国際的に認められ、さらなる保護活動が期待されています。一方で、鳥インフルエンザのまん延リスクも指摘されており、防疫対策が強化されています。出水市は養鶏業も盛んな地域であるため、感染症の拡大はツルのみならず、地域経済にも大きな影響を及ぼす可能性があります。

韓国との連携

2023年6月、出水市は韓国の国立野生動物疾病管理院と協定を結び、ナベヅルなどの渡り鳥の監視を共同で行うこととなりました。これにより、鳥インフルエンザの感染状況を共有し、迅速な対応が可能となっています。これからもツルの保護と感染症対策が重要な課題となるでしょう。

Information

名称
出水ツル渡来地
(いずみ とらいち)

出水・川内・串木野

鹿児島県