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なり味噌

(みそ)

奄美料理の味つけには欠かせない、ソテツから作られる貴重な味噌

「なりみそ」の「なり」は奄美大島の方言で、熟すと真っ赤な色になるソテツ(蘇鉄)の実のこと。奄美大島に自生するソテツを使ったなりみそは、奄美に古くから伝わる手づくり味噌だ。独特のえぐみがあり、奄美料理に欠かせない調味料として、新鮮な魚介類や三枚肉の味を引き立ててくれる。また、調味料として使われるばかりか、地元の人にはおつまみや添え物としてそのまま食べられている。長寿の島で知られる奄美の食生活を支えてきた味噌である。

ナリ味噌とは

ナリ味噌は、蘇鉄(そてつ)味噌とも呼ばれ、鹿児島県の奄美大島や徳之島、沖縄県の粟国島で作られる味噌で、ソテツの実から取ったデンプン、玄米、大豆を原料としています。奄美方言でソテツの種子を「ナリ」と呼ぶため、なり味噌(なりみそ、なりみす)とも呼ばれます。

ソテツは鹿児島県の大隅半島から沖縄県の八重山諸島に生息する「生きた化石植物」とも呼ばれる植物です。やせた土地や急斜面でもよく育ち、奄美諸島では防風林や境界樹として使われています。ソテツの実や幹には多くのでんぷん質が含まれており、長年救荒食として食されてきました。生の実と幹にはサイカシンという有毒物質が含まれていますが、製造過程で無毒化し使用できるようになりました。

主原料はソテツの雌花にできる種子と玄米で、麹の配合比により、ソテツの種子を主原料とするものと、玄米を主原料とするものに大きく分けられます。

ソテツの実を挽いて水にさらし乾燥させた「ナリ粉」もあり、粥、焼酎、味噌、醤油、菓子など広い用途で使われますが、ナリ味噌は実も砕いて入れます。昔は秋から初冬にかけてソテツの新しい実が収穫されると、共同作業で1年分の味噌を作りました。

ソテツの種子にはサイカシンという有毒で発癌性の成分が含まれますが、水溶性であり、また、ソテツに含まれるβ-グルコシダーゼとコウジカビによって分解されるため、発酵、熟成された蘇鉄味噌は無害です。ソテツのデンプンを食用にする場合よりも毒抜き工程は簡略化できますが、種子を割って数日間水に晒してから使用します。

歴史・文化、関連行事

1747年(延享4年)、薩摩藩による「換糖上納令(米を黒糖に換算して税として納める制度)」以降、奄美諸島では米からサトウキビへの栽培転換が行われました。厳しい年貢の取り立てにより食料が不足し、米に代わる食材として身近なソテツが食べられるようになりました。味噌づくりは奄美の女性にとって重要な仕事で、「紬(つむぎ)を織れない者と、味噌のつき方を知らない者は嫁にやるな」や「味噌は所帯のもと」ということわざがあるほどでした。

製造方法

1. 麹の準備:
    - ナリから作られたり、玄米や大麦を原料としたりすることがあります。
2. ナリの準備:
    - ナリを割って白い実を取り出し水洗いします。水洗いしたナリをむしろや竹ザルに広げ乾燥させ、その実を粗く製粉し、さらに乾燥させます。
3. 混合・発酵:
    - 水に一晩浸した玄米の水気をよく切り、ナリの粉末と混ぜ合わせて蒸します。むしろの上に広げて発酵させ、ナリ麹にします。
4. 仕上げ:
    - 柔らかく煮てすり潰した大豆とナリ麹をよく混ぜ、発酵させます。

ナリの毒であるサイカシンは水溶性なので、しっかり水にさらすことで解毒できます。

主な食べ方

ソテツを主原料とする味噌は、茶請けやつまみとしてそのまま食べたり、黒糖やざらめ、ゴマなどと加熱した肉や鶏卵などの材料を混ぜた食用味噌として加工されます。

- 豚味噌(奄美方言で「わーみす」)
  - 加熱して刻んだ黒豚の肉、黒糖、ゴマなどを用います。
- 魚味噌(奄美方言で「いゅうみす」)
  - タカサゴ(くるうるめ)、アマミスズメダイ(ずーずるびき)などを焼いてほぐした魚肉、鰹節、黒糖、ゴマを用います。
- 烏賊味噌(奄美方言で「いきゃみす」)
  - 茹でたアカイカなどの烏賊、または焼いたスルメイカを細切りにして、黒糖、ゴマを用います。
- 地豆味噌(じまむぃみす)
  - 揚げた薄皮付きのラッカセイ、黒糖、ゴマを用います。
- 卵味噌
  - 硬く茹でて細かく切った鶏卵、黒糖を用います。
- 苦瓜味噌(にぎゃういみす)
  - 切って茹でたニガウリ(ゴーヤー)、黒糖を用います。
  
  調味料

玄米やサツマイモを配合した蘇鉄味噌は、さまざまな料理の調味料として使われます。具体的には、以下のような料理に利用されます:

- 味噌汁
- サトイモ、ツワブキ、ヘチマなどの煮物
- 豚骨料理
- 刺身
- クサギなどの味噌和え
- レバー、豆腐、青パパイアなどの味噌漬け

特に、アオブダイ(いらぶち)の刺身は酢と合わせて酢みそにしたり、ヤマイモには黒糖と合わせて味噌だれにするなど、素材に合わせて風味を変えることができます。

主な伝承地域:奄美大島、徳之島

主な使用食材:ソテツの実(ナリ)、玄米、大豆、麹

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