奄美大島は、九州南方の鹿児島市と沖縄本島のほぼ中間に位置し、奄美群島の主要な島です。雄大な自然と豊かな文化遺産を持ち、観光地としても人気を集めています。他の島々と比較して「大島」とも呼ばれることがあり、奄美群島内の他の島々との対比では「大島本島」と表現されることもあります。
島にはウミガメが産卵に訪れる砂浜や、透明度の高い「アマミブルー」と称される海、そして太古の森を思わせる原生林が広がっています。2021年7月には、徳之島、沖縄島北部、西表島とともに世界自然遺産に登録され、さらなる注目を集めています。
奄美大島は面積712.35平方キロメートルで、東京都23区部や琵琶湖の面積よりも広く、離島の中では沖縄本島に次ぐ人口を誇ります。島内を移動するには車が必要で、北端の笠利崎から南部の町古仁屋までは約80km、車で2時間以上かかります。島の海岸線はサーフィンに適した波が立つことで知られ、特に手広海岸はサーファーたちに人気です。
奄美大島には多くの山々が連なり、標高694.4メートルの湯湾岳が島の最高峰です。他にも、小川岳(おごだけ)や金川岳(かねんごだけ)などがあり、トレッキングや自然観察を楽しむことができます。
奄美大島は年間の日照時間が日本で最も短く、冬場は曇りがちです。1月から2月にはカンヒザクラが咲きますが、小雨の日が続くことが多く、気温も比較的低めです。また、台風の通過が多く、毎年のように農作物やインフラへの被害が発生します。特に、2010年10月には記録的な豪雨が島を襲い、3名が死亡する災害も発生しました。
奄美大島はその豊かな自然環境が観光の主な魅力となっており、多様な生態系や美しい風景が広がっています。
奄美市住用町には、西表島に次ぐ国内第2位の広さを誇るマングローブ林が広がっています。このエリアは約71km²に及び、夏の夜には「一夜限りの花」として知られるサガリバナが咲き誇り、訪れる観光客を魅了します。
奄美大島の中心部に位置する金作原原生林は、島の自然を象徴する場所の一つです。亜熱帯照葉樹林が広がるこの原生林では、スダジイが優勢で、巨大なヒカゲヘゴやクワズイモの葉が南国らしい景観を演出しています。また、林道沿いにはアマシバやサクラツツジなどの花々が彩りを添え、季節ごとに異なる美しさが楽しめます。
奄美大島の山地では亜熱帯照葉樹林が広がり、南国特有の風景が見られます。特に、標高600m付近以上では雲霧林となり、樹木や枝にはコケやシダが着生し、独特の美しい景観が広がります。低地にはガジュマルやビロウなどが生育しており、海岸付近の森ではオオハマボウやオオバギが目立ちます。さらに、砂浜にはアダンやハマユウなどの植物が広がり、南国の風情を感じさせます。
奄美大島は多くの固有種が生息していることでも有名です。特に、アマミノクロウサギやリュウキュウイノシシといった哺乳類が生息しており、近年ではこれらの動物たちが増加しつつあります。しかし、ノヤギやノネコといった外来種による影響もあり、これらの動物たちの保護が課題となっています。
また、オオトラツグミやアマミヤマシギといった奄美固有の鳥類も生息しており、島内の自然環境は非常に豊かです。一方で、ハブやサキシマフヨウなども存在し、観光客が注意を払うべきポイントでもあります。
奄美大島は、徳之島や西表島、沖縄本島北部と共に、2021年にユネスコ世界自然遺産に選定されました。奄美大島はユーラシア大陸から切り離され、島独自の生態系を形成しており、固有種や亜種が多く存在します。これらの生態系が評価され、世界自然遺産としての地位を確立しました。
奄美大島には、国指定の特別天然記念物であるアマミノクロウサギが生息しています。これは島の自然環境が非常に保護されている証でもあり、観光客にとっても一見の価値があります。
奄美大島には、多くの国指定の天然記念物も存在します。例えば、ルリカケスやオーストンオオアカゲラなどがその代表です。これらの鳥たちは、奄美の自然環境の中で非常に重要な役割を果たしており、島の観光資源としても魅力的です。
奄美大島は、近年、ザトウクジラを中心としたホエールウォッチングの拠点として注目されています。沖縄諸島に次ぐ観光スポットとして、クジラの潮吹きやジャンプを間近で観察できる貴重な体験が提供されています。商業的な展開と環境保護の両立を目指した取り組みが行われており、観光客にとっても持続可能な楽しみ方が提案されています。
また、奄美大島の周辺海域では、ニタリクジラやマッコウクジラ、オキゴンドウ、ハシナガイルカ、マダライルカなども確認されています。これらの海洋生物を観察することで、奄美大島の豊かな海洋生態系を体感できるでしょう。
奄美大島周辺には、絶滅危惧種も多く生息しています。例えば、セミクジラやミナミハンドウイルカが確認されており、これらの生物を保護する取り組みが進められています。観光を楽しむと同時に、これらの絶滅危惧種に対する意識を高めることが重要です。
奄美大島では、地元の食材を活かした多彩な料理が楽しめます。
地元で取れる新鮮な海産物、黒豚、鶏肉、ヤギ肉などの食材を使った郷土料理が多く存在します。奄美特有の調味料として、粒味噌や蘇鉄味噌、甘みのある醤油、黒砂糖などが用いられ、独特な味わいを生み出しています。また、奄美黒糖焼酎や発酵飲料のミキなども地元で愛されている飲み物です。
幕末の偉人、西郷隆盛が島流しで奄美大島に滞在していた際に出会った女性「愛加那」の名前を冠した煎餅も観光客に人気があります。このように、歴史と食文化が融合した名物が多いのも奄美の特徴です。
奄美大島の農業はサトウキビやサツマイモを中心に、タンカンやポンカン、パッションフルーツ、マンゴーといった南国特有の果物の栽培も盛んです。米の二期作が可能な気候ですが、減反政策の影響で米の生産は減少し、代わりに果物や野菜などの経済作物の生産が主流となっています。
奄美大島は漁業も活発で、クロマグロやカンパチ、クルマエビ、タイなどの養殖が行われています。特に、クロマグロの養殖は世界的にも注目されており、瀬戸内町の大島海峡では近畿大学水産研究所によるクロマグロの養殖が進められています。この養殖マグロは「近大マグロ」として知られ、瀬戸内町は日本一の養殖クロマグロの生産地として評価されています。
奄美大島は、奄美黒糖焼酎の製造が認められている特別な地域です。この焼酎は、甘みのある独特の風味で人気を集めています。
島の伝統的な染織技術の伝統工芸品である「奄美大島紬」が有名です。高級和服の生地として広く評価されていますが、和服の需要減少や輸入品との競争で一時期より売り上げが減少しています。絹を使った美しい模様が特徴で、多くの工房でその制作過程を見学することができます。また、島唄や三味線の音色が島の文化を象徴しており、伝統的な音楽も観光の一部として楽しめます。
奄美大島は豊かな自然に恵まれており、トレッキングやカヌー、シーカヤックなどのアクティビティが楽しめます。中部の山岳地帯にある「金作原原生林」は亜熱帯の原生林が広がる神秘的な場所で、トレッキングツアーが人気です。南部の住用町には広大なマングローブ林があり、カヌーによる観光が楽しめます。
奄美大島の海もまた、多くの観光客を惹きつけています。瀬戸内町の大島海峡ではシーカヤックが盛んで、毎年夏には「奄美シーカヤックマラソンin加計呂麻」が開催され、国内外から多くの参加者が集まります。また、奄美市笠利町ではモーターパラグライダーを楽しむことができ、スタンドアップパドルボード(SUP)も人気のアクティビティです。
奄美大島には地元に根付いた金融機関も存在し、奄美大島信用金庫や奄美信用組合が主な金融機関です。また、南西諸島の防衛強化の一環として、2019年には陸上自衛隊の奄美駐屯地が設置されました。これにより、地域の安全保障体制が強化され、観光客にとっても安心できる環境が整っています。
奄美大島の文化は、琉球文化圏に属しており、沖縄の文化と共通点を持ちながらも、独自の発展を遂げてきました。
奄美大島を含む奄美群島では、琉球語の一部である奄美語が話されています。基本的な語彙や表現において琉球語と共通点が多く、日本語とは異なる言語として国際的に認識されることが多いですが、学者によってはこれを日本語の方言とみなす場合もあります。
1185年の壇ノ浦の戦いで敗北した平家の落人たちが奄美大島に逃れ、彼らがもたらした本土の文化が島に浸透しました。その証として、いくつかの城砦やグスク(城)が築かれたと言われており、平家ゆかりの神社も点在しています。加計呂麻島では平資盛を祀る大屯神社にて、重要無形民俗文化財指定の諸鈍芝居(諸鈍シバヤ)が受け継がれています。
奄美大島は、自然と文化が調和した魅力あふれる観光地です。美しい海と原生林、希少な動植物に囲まれたこの島は、訪れる人々に癒しと感動を提供します。また、伝統的な食文化や工芸、音楽も楽しめるため、自然好きだけでなく文化愛好家にもおすすめの観光地です。世界自然遺産に登録されたことにより、今後さらに多くの観光客が訪れることが期待されています。